22. チャイナタウンの漢方

今回は漢方薬の話。シカゴで漢方とは変な話ですが…まあ聞いてください。

産後少し体調を崩していた私は、前から興味を持っていた漢方を飲んでみようと思い立ったんです。でも、漢方薬がアメリカにあるんだろうか? 日本から送ってもらうのが手っ取り早い気がして、まずはインターネットで検索。そしたらあるわあるわ、何百という数の漢方薬のサイトが。中には、ネットで無料相談を受けつけてくれるところもあるんです。驚き。薬だけに診断するための質問事項は山のようにあって、舌の状態まで詳しく書かなくてはいけないんだけど、結構楽しかったりして。で、結果おすすめの漢方薬2つを、母に送ってもらいました。漢方って副作用が少ないけど効き目も穏やかって言うでしょう。でもすぐに元気になりたい。そう思いながら飲んでみると、なんとまあ、1週間もしないうちにみるみる元気が出てきたのです。そんなバカなと思われるでしょうが、本当です。恐るべし漢方!

そうこうしているうちに、今度は欲が出てきました。直接漢方医に診てもらって完璧に元気になりた〜いと。で、友達に聞いてまわったら、シカゴのチャイナタウンに本場中国の漢方医がいるというではありませんか。しかもいいウワサばかり。子供のアトピーが治った、妊娠した…。これはもう行くしかありません。

ご存知かもしれませんが、チャイナタウンはシカゴのサウスサイドにあって、決して安全とは言えないところ。しかも、行ってみたらその病院というのがまたあやしい感じなんです。待合室らしき部屋にはいろんなものが陳列されていて、健歯茶(歯が強くなる?)や禁煙茶、Lover's Tea(精力茶?)といった不思議なお茶があるかと思いきや、その隣りには筆記用具やおもちゃ、壁に飾ってある中国風の絵にも値札がついている。これで患者がいなかったらすぐに帰ってしまうところですが、ところがどうして大繁盛。しかもアメリカ人が多い。アメリカ人と漢方ってなんだか不思議な組み合わせですよね。思わず隣りにいたアメリカ人女性に、「よく来るんですか」と声をかけてしまいました。すると待ってましたとばかり、目を輝かせながらこう言うのです。「病気が治ったの。ミラクルよ」。彼女によると、2ヶ月前から急にめまいがし始めて、救急車で2回も運ばれ、会社も辞めてしまった。ところが、友達のすすめでこの病院に通ってみたら、1ヶ月で治ってしまったのだとか。「腕が痛くて上がらなかったけど、今はこの通り」。そう言ってうれしそうに腕を上げてくれるのです。

待つこと20分。名前を呼ばれ診察室に入っていくと、中年の中国人女性が座っていました。まずは私の症状を聞いてうなずいた後、腕の脈を測って何やらメモる。そして「はい、舌を出して〜」。診察は正味2、3分といったところでしょうか。「体が弱ってますね。血の循環も良くないし、冷え性でしょう? でも、薬を飲めばすぐによくなります」と言ったあと、最後に処方箋らしき漢字をさらさらと書き、薬剤師に渡してあっという間におしまいです。そうそう、私は冷え症。特に最近はしもやけがひどいのです。先生は、そういうことを脈と舌だけでわかってしまうのでしょうか。やっぱり彼女はウワサ通りの名医? 私の中では早々と、「元気になって、25メートル息継ぎしないで泳げてしまう図」が広がっています。

ところで、先生は2週間分の薬を処方してくれたのですが(高かった〜!)、これが薬と言えるのかどうか…。見た目は乾燥したシイタケやゴボウのような、茎や根っこが10種類くらい(写真左)。これに1リットルの水を加えて1時間ほど煮込み、200ccくらいになったら濾して、茶色の液体(写真右)を飲むのです。これが、かなりまずい!!!どこかのCMみたいに「もう一杯!」なんて、とても言えたもんではありません。変に酸っぱくて…そうですね、ほうじ茶にお酢を混ぜたみたいな味。こんなもんをこれから毎日飲まなくちゃいけないのか、それはつらいぞ。そう思いながら、でもさっきから頭の片隅では「良薬は口に苦し」ということわざが連呼しています。まずいのはいい薬の証拠、本場中国っぽい葉っぱの漢方薬だし、これは効くぞ、と。そして、馴れとは恐ろしいもので、1週間もたつとおいしいとまで感じるようになり、今では熱くして味わいながら飲んでいます。私ってヘンタイかも。

あれから1ヶ月半。行くたびに症状に合わせて薬の種類が変えられ強力になっていき、そのたびに元気度が増してきたような気がします。そしてついに先日、「元気になったから、今回の薬でおしまい」と言われました。確かに私は元気になりました。それにしても、漢方は長く飲まなきゃいけないと覚悟していたのに、たった3回で終わりとは。で、これは私の勝手な想像なんだけど、今まで元気だった人が急に体調を崩した場合は、回復も早いんじゃないか。加えて、薬の相性も良かったのでは。以前読んだ漢方の本に、普通は穏やかに効いていくけど、薬の相性がいいと劇的に効く場合があると書いてあったのを思い出しました。何はともあれ、良かった〜、元気になれて。今回のことで「健康第一」を再認識した私でした。でもって、もう一度言わせてください。恐るべし中国4000年の歴史!

2002年2月