13. ハロウィン

わび・さびなどという日本の洗練された美しい紅葉とは違って、アメリカのそれはとってもワイルド。でもこれがまた「自然」って感じでいいのよねぇ。そうやって感慨にふけっているのもつかの間、10月の声を聞く頃には、赤や黄色の紅葉で埋めつくされていた街は一転、オレンジのカボチャ一色になります。ハロウィンがやって来るのです。いろんな宗教のお祝いごとを取り入れるのが得意な日本でも、まだなじみの薄いハロウィンのお祭り。でも、映画やテレビドラマでその楽しさは十分わかっていたから、アメリカに来たら一度は体験してみたかったんですよね。クリスマスのイルミネーションの華やかさもそれはもう感動だけど、やっぱりアメリカだからこそ味わえるという意味では、ハロウィンをおいて右に出るものはないでしょう。

さて、例のごとく一体何のお祭りなのかいまいち理解していない私にとって、ハロウィンとは何か? を調べるのが一番の優先順位。ハロウィンは毎年10月31日で、もともとは、アイルランドやスコットランドに住んでいたケルト族の元旦(11月1日)の前夜祭だったそうです。この日は前年に亡くなった人の供養の日であると同時に、妖精や魔女が出没していたずらをすると言われていた日。日本でいうお盆のようなもの。これが時代とともに変化し、アメリカではカボチャを人の顔型にくりぬいて提灯を作ったり、子供たちが魔女やおばけに仮装して、Trick or Treat!(お菓子をくれないと悪さをするぞ)と言って各家庭をまわる楽しい行事になったそうです。最近は、大人のコスプレパーティーとしても定着してるのは、もうご存知ですね。

確か去年の今ごろは、アパートに住んでいたせいか誰も訪ねてこなかったと、意気消沈していた私。今年は引越しもしたことだし、誰か一人くらいは来てくれるだろうと期待に胸を膨らませ、パンプキンバッグ2つにあふれんばかりのキャンディを用意。本当は気合いを入れて手作りのクッキーも作りたかったのですが、子供の母親が中身を心配して、封のしてあるお菓子以外は捨ててしまうと聞いたので、しかたなく断念。捨てられるのを承知で作るほど心が広くないもん。

さて、今年のハロウィンは火曜日。そしてこの日は、ちょうど英語学校のある日でもありました。昼間からさすがに仮装はないでしょ? と全く期待もしないでカメラも持たずに行ってみたら、いや〜ほんとにいるんですね、仮装してる人が。しかも生徒ではなくて先生。いい年をした真面目そうなミセスなのに、ある人は長い付けまつげに何重にも塗ったアイラインで、いつもの5倍くらいはあるんじゃないかというくらい大きな目を作って、ミニーマウスになっている。そしてまたある人は、ちょび髭に黒のハットにぶかぶかの黒い靴。そう、彼女はチャップリンになって、でもせかせかと仕事はしているのです。テレビドラマ「ER」を見るたびに、まさか病院で仮装はないだろうなと、いつも疑いの目で見ていましたが、なるほどあり得る話です(でも、生真面目なベントン先生が仮装するのはどうしても信じられない)。私のクラスでは誰も仮装してくる人はいませんでしたが、先生がお菓子を配ってくれました。ペロペロキャンディやm&ms を食べながら授業をするのも、なかなか楽しいものです。

子供が帰宅する4時ごろから、例の待ちに待ったお菓子配りが始まります。4時10分、まず我が家を訪ねてきたのは、3歳くらいの女の子2人とお母さん。1人はプーさんのぬいぐるみをかぶり、もう1人はウサギさんでした。彼女たちは、お母さんに「さぁ、なんて言うのハニー? Trick or Treatって言ってごらん」と何度も言われながら、体の半分くらいはありそうな大きな袋を私に向け、何とかおねだりをすることができました。そのしぐさがあまりにも可愛くて、もう食べちゃいたいくらい。それから5分後。今度は10歳くらいの男の子の4人組がやって来ました。あれは何の仮装だろう? 頭は自由の女神のように尖っていたけど。彼らはキックボードで忙しく走り回っているので、ドアベルを鳴らして私が階段を降りて行った時には、すでに留守と判断したのでしょう。代わりに玄関に置いてあったカボチャの提灯が持って行かれ、お隣さんの駐車場に投げ飛ばされていました。これが、「悪さ」なんでしょうか。私が「戻しといて!」と怒ったら、ちゃんと戻すところなんかはやっぱり小学生、あどけないですね。

その後もわくわくして待っていたのですが、5時を過ぎると人気なし。結局訪ねてきたのは、合計で5、6組ほど。意外に少ないのが残念でした。後で聞くところによると、最近はみんなハロウィンパーティーに行くことばかり夢中になって、家にいる子が少なくなっているとのこと。いつでも手に入るお菓子より、年に一度のパーティに参加した方が、楽しいのでしょうか。

ところで、この年々盛り上がっているハロウィンパーティー。毎年何かしらの事件が起こって社会問題にまでなっています。8年前に起こった交換留学生・服部君の悲しい事件もこの時。今年は、俳優のアンソニー・ドゥワイン・リーさんが、仮装パーティー中におもちゃの拳銃を警察官に向けたのを本物の銃と勘違いされて撃たれ、死亡するというショッキングな事件がありました。この事件は、リーさんが大柄の黒人だったことから、人種差別問題にまで発展しています。また、ハロウィンで人を驚かそうとその練習をしてした14歳の少年が、誤って木からつるしたロープで首を吊ってしまい、重体になる事故も発生。楽しいはずのイベントも年々イメージが損なわれてしまっているようです。

日本では、これから浸透しそうなハロウィンのイベント。海外で起こった事件とはいえ、こう何件も続いたのでは、親も学校も消極的にならざるを得ないですね。が、その前に、「日本にはお盆があるからそれで十分」なんて声も聞こえてきそうです。

2000年11月

(写真上)10月に入ると街はカボチャ一色。顔の形に切り抜いてJack−O−Lanternを作る。
(下)“Trick or Treat!”こんなかわいい子に言われたらいくらでもお菓子をあげちゃう。