アメリカの日本語教室

アメリカ人の友達が欲し〜〜い!そう考えていて浮かんだ名案が、ずばりアメリカ人のための日本語教室に通うことです。

シカゴに来る前は、「友達なんてすぐできる」なんて甘い考えに胸を膨らませていましたが、いやはや現実は厳しい。アメリカ人のテニスクラブやヨガ教室に通ってはみるものの、話はしても、では今度一緒に遊ぼうというところまではいかない。大きなネックはやっぱり英語で、話についていけないし、相手もこちらに気を使って疲れてしまう。そしてもうひとつのネックは、共通の趣味や話題がないこと。つまり一緒にいて楽しいかどうかという、基本的な問題です。そこで考えたのが日本語教室。こちらは英語あちらは日本語が学びたいという共通点があるから、これなら友達ができるかもしれない、と思ったわけです。

ラッキーなことに、私の通っているコミュニティー大学に日本語教室があって、10回コースの講座がこれから始まるところでした。恐る恐る授業の初日に、日本人で在米20年以上という小林先生にボランティア希望を申し出たところ、二つ返事でOK。先生の方でも、最近の日本文化と標準語にいまいち自信がないそうで、手伝って欲しいようでした。これで、第一関門突破。

生徒は9人で、みんな人の良さそうな人ばかりです。ワクワクしながら始まった授業は、まずは生徒への質問から。「日本の印象は?」う〜ん、初めから興味深い質問。「みんな金持ちで頭がいい」「ハイテクノロジーの国」「女性はいつもきれいな洋服と高価なバッグを持ってる」「まじめ」…とここまでは予想通りの回答。おもしろかったのは「愛国心が強い」、「世代ギャップが大きい」という回答でした。

次の質問、「なぜこの講座を受けたのか」については、将来日本に行く可能性があるからという人が3人、日系企業で働いている、以前日本にいたことがある、フィアンセが日本人、それから漫画オタクもいました。日本の漫画が大好きなシュワルツさんは特に時代劇に夢中で、その日見せてもらったお気に入りのコミックは新撰組の話でした。彼いわく、「原文で読みたいと思って辞書で調べるけど、単語と単語の間にスペースがないから区切りがわからない。この前幕末を幕と末で調べてしまって全然意味が違ってた」とのこと。そう、確かに難しい。さらに、「うぉぉぉ!」という言葉を指して、どの辞書にも載ってないから意味を教えてくれと言う。あぁ! なんていとおしんだシュワルツさん。もっと前に出会ってたら、いくら探しても載ってないって言ってあげられたのに〜。

今まであまり感じなかったことですが、私達って辞書に載ってない言葉をたくさん使ってますよね。たとえ単語間に区切りがあったとしても、「私達」「って」「辞書」「に」「載って」「ない」「言葉」「を」「たくさん」「使って」「ます」「よね」をこのまま辞書で調べたら、半分くらいしか載ってませんよ、きっと。シュワルツさん! あなたの辞書が悪いんじゃないんですよ。日本語が難しいんです。

ところで授業の内容ですが、みんなほとんど日本語を知らないということもあり、この講座は読み書きなしで基本的な日本語会話の勉強が中心。講義はもちろん英語で、教科書も先生が黒板に書くのもローマ字です。「私は○○です」「こちらは○○さんです」から始まり、「〜ですか」という疑問文、「〜でした」という過去形、「これ、それ、あれ」などの基本を勉強します。まぁこれらはいいとして、見ていて一番大変そうなのが数字の読み方。後につける単位によって読み方が何通りもあるから混乱してしまいます。「4はよんかしって読むのに、なぜ時間の時はよじって言うの?」「いちまん(一万)っていうのに、なぜいちひゃく(一百)って言わないの?」「1ぷん、2ふん、3ぷん。ふんとぷんを使い分けるのに何か決まりはあるのか」など、疑問はつきません。そしてこちらも「そういう決まりだから」と答えるほかないのです。おもしろいのは、みんながこういった疑問をすればするほど、私自身も日本語に疑問が湧いてくること。「私は…のはは、なぜわって読むんだろう」、「アメリカは米の産地でもないのになぜ米国なんだろう」って。そして改めて、日本語は奥が深いんだなぁ、こんな難しい言葉を話している日本人ってすごいと感動すら覚えます。

さて、肝心の友達作りですが、日本人のフィアンセと同棲中というジェニファーに、和食の作り方を教えてあげることになりました。聞くところによると、普段はほとんどアメリカ食で、時々フィアンセが味噌汁を作ってくれるとか。「フィアンセはどんな料理が好きなの?」「私が作った和食なら何でも喜ぶ」そううれしそうに話していたから、相当和食料理に興味があったに違いありません。

約束の日、ジェニファーはフィアンセに書いてもらった「食べたいものリスト」を持って、日本食スーパーにやって来ました。リストに書いてあったのは、とんかつ、味噌汁(白味噌)、鍋(キムチ鍋)、湯どうふ、おにぎり、すき焼き。それ見て思わず笑っちゃいましたよ。だって、心の底から和食が食べたいんだという気持ちが伝わってきたから。おにぎりっていうところがね、ものすご〜くよくわかる。で、今回は鍋とすき焼きをやめて、きゅうりとワカメの酢の物とワカサギのマリネを加えた6品を作ることにしました。

ただ作るだけでなく、ジェニファーはレシピをメモする気合い振り。そこで、いろいろと説明しようと思ったら、これが意外と難しいんです。まず「大さじ一杯」の量からして日本とアメリカは違うし、みりんやだしの素、ゆず、ワカメといった物の名前、それから絞る、千切りする、まぶすといった動詞を英語でどう説明していいかわからない。和英辞典を引き引き、身振り手振りでなんとか説明しましたが、果たしてどれだけ理解してくれたでしょうか?

料理の方は、2時間後にはなんとか6品できあがりました。2人で試食してみましたが、ジェニファーはワカサギのマリネがお気に入りのようでした。過去の経験からいっても、酢の物って意外とアメリカ人受けするんですよ。絶対ダメだと思っていたきゅうりの酢の物といなり寿司はかなり好評で、作り方を教えて欲しいとまで言われたくらい。

ジェニファーは気に入ってくれたけど、肝心のフィアンセは? その後彼女は、再度和食にトライしたんでしょうか? 一抹の不安を抱きながら、この報告は次回に回したいと思います。友達作りの続編も書けたらいいんですが…乞うご期待!

2000年5月

(上) 日本語教室/1と7の発音の違いがわからないって? 日本人もよく聞き間違えますよね
(中) 日本語教室のテキスト/表示を読むのは至難のわざ。でも先生いわく「〈お手洗い〉だけは覚えましょう」
(下)フィアンセのリクエストで、おにぎりを作るジェニファー