8. ESLのすすめ
ESLをご存知ですか?English as a Second Languageの略で、文字通り英語が母国語でない人のためのカリキュラム。言ってみれば、大学に入るための予備校、留学生にとってのTOEFLみたいなものです。実は私、家の近くのコミュニティーカレッジでこのコースを取ってまして(月〜金、毎日5時間)、苦労半分おもしろさ半分、今までにない体験が山積みです。ということで、今回はESLのご紹介…。
一応、中・高と6年間も英語を勉強してきたのに、それを言うのが恥ずかしいくらい私の英会話はひどい! それをこのコースに通ってつくづく痛感しています。というのも、先生や生徒の言ってることがまったくもって理解できない。そればかりか、私が話す基本の英会話、例えば「I can't work」(walkに聞こえるらしい)や「I always have a vitamin」(ビタミンではなくバイタミンと発音する)が通じないんです。日本人ってグラマーが得意でしょう。だからやろうと思ったらできるんでしょうが、その前に今どこをやってるのか、何ページをやればいいのかが聞き取れない。最初の頃は、何が宿題なのかもわからない状態でした。まぁそれでもグラマーはいいとしましょう。問題がリスニング・スピーキングの授業。グループであるテーマについて議論したり、2人の会話をアドリブでみんなの前で発表するなんて、それはそれはしんどい。私がうまくしゃべれなかったら相手の成績も下がる、私のせいだどうしよう…そんなことばかり考えて毎日ドキドキの連続です。逆にグラマーが苦手でペーパーテストはできなくても、英会話ならまかせて! という人がクラスにはたくさんいます。よくよく聞いてみると文法はめちゃくちゃなんだけど、すらすらと話せてスラング英語もよく知ってる。どう考えてもこっちの方が得ですよね。
そんなわけで、いつもサボりたい誘惑にかられるんですが、それでも皆勤賞なのは、クラスメイトと話すのが楽しいからかもしれません。韓国人、中国人、インド人、パキスタン人、ロシア人、ウクライナ人、メキシコ人と地域も宗教も違う人達がたくさんいて、教科書とは違った生の文化や考え方に触れられるんです。これって魅力でしょう。
一番の驚きはパキスタン人のナズラ。家が厳格なイスラム教徒のため、肉と名のつくものは一切食べないし、服装は肌を人前にさらしてはいけないので、いつも長衣をまとい暑くても長袖。お祈りは1日5回あって、学校でも昼休みにはいつもお祈りをしています。結婚に関しては、パキスタンでは未だに親が子供の結婚を決めるそうです。結婚式の話で盛り上がったのは、インド文化。結婚式当日、新郎は象に乗って新婦を迎えに行くんだそう。ただし金持ちに限る。ロシアの習慣で驚いたのは、共産国だから医療費は無料なのに、違う意味でお金がかかるということ。治療前に医者に渡す礼金の金額で、治療の内容が異なるとか。特定の人だけかと思ったらほとんど習慣化しているそうです。韓国人のジー・フンとソン・スーと話をしていた時には、洗濯機や生理、三角関係、ジャンケンポン、玉ねぎといった言葉が韓国でも使われていることがわかり、お互いびっくりしてしまいました。
こう書くと、毎日が新鮮な発見ばかりで楽しいと思うでしょう。確かにみんな仲がよくて雰囲気もいいけど、授業ではしょっちゅう言い争いをしています。みんな(特にロシア人と中国人)ものすごく自己主張が強いから、自分の意見が正しいと思ったらとことん言わなきゃ気が済まない。「本の感想なんだから、意見が違って当たり前じゃない」、「まぁまぁみんなの意見も聞こうや」って思うんですけどねぇ、きっとそれは日本人的な考え方。前にも書いたように言ってなんぼの世界なんですね。
それからこういうこともありました。私最近水泳を始めたんですね。で、「来年のミニトライアスロンにでも出ようかな。目標があった方がいいでしょ?」って、中国人のクラスメイトに言ったんです。そうしたら恐い顔して、「私の目標は英語が話せるようになることだけ。そんなことが目標だなんて、あなたの人生は楽すぎる」って叱られちゃいました。確かに、仕事もしないで水泳してるなんて、彼女からしたら楽な人生です。相手の状況をよく考えないとね。特にESLの生徒は、自分の国を捨ててまでしてアメリカにやって来るギラギラした人が多いから、言葉を選ばなくてはなりません。
多分、これからも異文化と接していて感動したり、はっとしたり、時には傷つくことがあるかもしれません。でも、多くの異文化にしかも同時に触れられるなんて、滅多にないチャンス。いろんなことを吸収したいと思っています
2000年5月
(上)クラスメイト/授業では白熱しすぎて言い争いになるけれど、ほんとは仲いいんです
(下) ジー・フン(韓国人)に箸の使い方を教えてもらうクロナウ(インド人)