16. 科学産業博物館、人気の秘密

シカゴの観光名所といって何が浮かびますか。シアーズ・タワーやジョン・ハンコック・センターに代表される超高層建築やシカゴ美術館、シカゴ・シンフォニー、ブルース。ヴィク・ファン・クラブだけにシカゴ・カブス観戦、ちょとデンジャラスなサウス・サイド見学なんて声も聞こえてきそう。もちろんどれもお薦めなんですが、今私の一押しは「Museum of Science and Industry(科学産業博物館)」。先日行っていろんな意味で感動&衝撃的だったので、みなさんにも紹介します。シカゴに来て空いた時間ができたらぜひ行ってみてくださいね。

2年もシカゴに住んでいながら今回が初めてというのは、この科学産業博物館がシカゴ大学の隣り、つまりシカゴでも危険地帯といわれているサウス・サイドにあるから。でも、ガイドブックによると来館者は年間450万人で、全米の博物館の中ではワシントンDCの航空宇宙博物館についで2番というので、それはさぞかしおもしろかろうと今回意を決して行ってみました。「意を決して」だなんて聞くとみなさん行きたくなくなるかもしれませんが、ダウンタウンからタクシーに乗っていけば問題ないのでご心配なく。

この博物館、何がそんなに人気かというと、他で見られない展示品が数多くあること、アメリカの科学と技術が実物を通じて体験できる、この2点に尽きると思います。中でもいつ行っても長蛇の列という人気のコーナーが、正面入り口ロビーの階段のスペースになぜか人目をはばかるように展示されている「人体の輪切り」。あまりの衝撃にその後3日間夢でうなされてしまったくらい、これはもうすごいというほかありません。男女二体が一体は縦に、一体は横に1センチずつにスライスされ、アルコール漬けになったものが20ほど展示されています。最初は模型かと思ったのですが驚くことにすべて本物。それを証拠に外側の皮膚には体毛、眼球の周りにはまつげ、歯の治療痕もリアルに残っているのです。内臓なら普段見えないからあまり実感は沸きませんが、鼻や舌、目の切断面を目の当たりにしてしまうとさすがに正気ではいられなくなります。でも、そうはいってもホラー映画のように恐い恐いと言いながら薄目を開けて見てしまうのが人間の心理というもの。誰もが一度は思う「人間の内臓ってどうなってるんだろう」という普通なら到底解決できない疑問に答えてくれるわけですから、ある意味ツタンカーメンの黄金のマスクや恐竜の化石よりも見た時のショックは強いかもしれません。これが人気の秘密でしょう。今回あまりのグロテスクさに写真はありませんが、興味のある方のために内臓は隙間なくぎっしり詰まっていて、意外に濃い色だったとだけ書いておきます。

それにしても、一つ疑問に残るのは、こんなことをして批判の声はないのだろうかということ。当然生前に本人や家族からの同意があったか、あるいは本人たっての希望で行われたのかもしれませんが、でも二体とも囚人で黒人だったということもあるし、差別問題など相当な議論があったことは間違いないでしょう。それでも実際に展示してしまうところは、さすが(?)やることが半端じゃないアメリカ。日本では絶対にあり得ないでしょうね。

さて、人体輪切りの他にもうひとつ衝撃的なものはといえば、それは「胎児の成長」コーナー。受精してから37週目までの胎児20体ほどが同じくアルコール漬けされて展示されています。これももちろん本物。すべて事故などで亡くなった胎児なんだそうです。驚くのは、受精から数週ですでに人間の形になっていること。その後成長著しく、37週の胎児などは生まれたての赤ちゃんと見た目は一緒。「もう少しだったのにね」と思うとなんだか悲しくなってしまいます。妊婦さんや妻の妊娠にいまいち実感の沸かないダンナさんには必見のコーナーでしょう。

科学が実物を通して体験できるのもこの博物館の魅力のひとつ。なんと実際使われていたユナイテッド航空のボーイング727型機が展示されていて、シートに座るとシュミレート・フライトができるようになっています。その際、離着陸時の管制塔とのやりとりができたり尾翼、エンジンの排気口なども動くので、大人の私でもエキサイトしてしまいます。その他、アポロ8号司令船や第二次世界大戦の時のドイツの主力潜水艦U―505号などの実物もあって盛りだくさん。1日ゆっくり時間をかけて見学することをおすすめします。

シカゴまできて博物館見学? と首を傾げる方もいるかもしれませんが、科学産業博物館がちょっとそのへんの博物館とは毛色が違うことがわかっていただけたでしょうか。話の種にぜひシカゴに来たら一度行ってみてくださいね。

2001年6月