R・D・ウィングフィールドのフロスト警部シリーズ第4作
『フロスト気質(上)(下)』

フロスト気質 上 (創元推理文庫 M ウ)フロスト気質 下 (創元推理文庫 M ウ)  ローザン『冬そして夜』が出、フェイ・ケラーマンも久々に『正義の裁き』が出、ゴダード『還らざる日々』も出た。このあたりならVFCのみなさまにはあえて紹介するまでもないと思い、新人作家の作品を読んでみたが、いまいちおもしろくない。となれば、これしかないと本屋に走って入手したのが『フロスト気質(上)(下)』、R・D・ウィングフィールドのフロスト警部シリーズ第4作である。
 
 英国の地方都市デントンで、ハロウィンの夜、繁華街の裏通りに積み上げられたごみの袋から、指を切断された少年の遺体が見つかる。行方不明の少年かと思いきや、なんと別人! 15歳の少女が全裸でヒッチハイクしているのが通報されたり、廃屋で腐乱死体が発見されたり、次々と事件が起こる。デントン署のフロスト警部は、野心家の女性部長刑事リズ・モードやフロストに恨みを抱くキャシディ警部代行とごたごたを繰り返しつつ捜査に当たるが、ヘマばかり。時間と経費ばかりかかって何ひとつ収穫は得られず、かえって事態は混沌とする一方。経費節減をモットーとする事なかれ主義の上司マレット警視にしぼられ、ろくに睡眠時間もとれないまま、フロストはおのれの勘に従ってひたすら突き進む。

 主人公たるフロストは、ひっきりなしに煙草をふかし、口を開けば下ネタ炸裂、美女には弱いオヤジ警部。キャシディ警部代行を「坊や」、モード部長刑事を「張り切り嬢ちゃん」とあしらう。思い込みの激しさは天下一品。どこがいいのか、このオヤジとぼやきつつ読んでいるうちに、なぜかとりこになってしまう。癖になる味フロスト警部、その秘密はぜひご自分でお確かめいただきたい。

 ヴィクとフロストが出会ったとしたら――フロストはヴィクに一蹴り二蹴り入れられるだろうけど、いいコンビになりそうな気がする。ヴィクファンのみなさま、だまされたと思って、ぜひ一度フロストに会ってほしい。シリーズものだが、本作だけでもフロストの魅力は十分伝わるはず。

 愛すべきフロスト警部を世に送り出した著者ウィングフィールドは惜しくも2007年7月に亡くなった。邦訳されていないフロスト警部ものは、あと2冊しかない。残り2冊の邦訳を心待ちにしつつ、フロストのこれまでの活躍をじっくりとたどっていきたい。

『クリスマスのフロスト』『フロスト日和』『夜のフロスト』『フロスト気質』(いずれも創元推理文庫)
"WINTER FROST" "A KILLING FROST"
アンソロジー『夜明けのフロスト』(光文社文庫)に中編「夜明けのフロスト」が収録されている。