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「ゴースト・カントリー」を読んで

オッパイは性の象徴じゃない

谷澤 美恵

 登場人物たちの、汗や息遣いまで感じさせるような存在感…。冒頭のルイーザの登場シーンから強烈でしたね。それにマーラ。毒と牙だらけで、でも10代の少女独特のナイーヴさが痛々しいほど。
 でもこちらが感情移入しかけると口から火を吹いて拒絶される…。読んでいてそんな気持ちになりました。
 物語半ばて゛スターが登場してからは、もうすごい迫力で、正面から両腕をがっしりつかまれて身動きできない (笑) 、逃げようにも逃げられないような強い力があって、不思議で神々しい存在かと思うと、にんにく臭くて下品。しぐさも行動もまるで野生の動物のよう。こんなキャラクターには初めてお目にかかりました。ヴィク・シリーズだけでは充分にはわからないであろうサラさんの小説家としての凄さを見せてもらったような気がします。

 徹底してるなと思ったのは、スターの巨大な乳房が、男たちにとっては欲望として描かれていること。これを読んで私自身がどう感じるか、ということをいやでも考えさせられました。オッパイは性の象徴、という観念が無意識のうちに根付いていたかもしれません。そう考えると恐ろしい。性ではなく生、生きる源、パワーの象徴、として描かれていることに圧倒されました。
 マーラの姉、ハリエットの心が少しずつ少しずつ変化していく様が非常に細やかで印象的でした。心の奥底にいろいろなものと一緒にしまいこんでいた妹への愛情が、妹に対する憎しみが湧き上がってくるのと同時に、ほんの一瞬チラッと顔を出しては消える…。まわりの人間の悪意と狡猾さが凄まじいだけに、それがとても暖かくて人間的で、うれしかったです。それにしても、ドクター・ストンズ、メファーズ、レイフ・ラウリー、ドクター・ハネパー…。彼らの冷たさ、醜さ。それがまた吐き気を感じるほど現実味があって、本当に怖かった。これはあまりにもひどい、いくらなんでもここまでひどい人間はいないでしょう、と言いたいけど、そう言い切れないのがまた恐ろしい。そう、世の中は悪意に満ちている。のほほんと生きるのは楽だけど、そういう事実を忘れるほどのほほんとしてちゃイカンなあ、なんて思いました。

 「そんなに簡単に癒されてどーするよ」っていうどなたかの感想(文句?)を見た記憶がありますが、そうかぁー? スターは死んでしまったけど、みんな癒されてあー良かったぁー、なんて読後感は私にはありませんでした。少なくとも私にとっては「癒し」というのはピンとこないです。強いていうなら…目覚め、かな? 断言したくはないのですけど。

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