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「ゴースト・カントリー」を読んで

「ゴースト・カントリー」の奇蹟

大藏まきこ

 本を閉じて、首がくの字に折れた女性がたちまち元気になり、その輝く声まで取りもどすなんて事は、かなりなそそうな話だと思う。それはそうだけど、こういう奇蹟を渇望する気持ちが沸き上がってくるのも又確かなのだ。世間の常識と自分の気持ちとの間に在るはるかな距離が、この物語から見えてくるような気がする。
 私には老医師が印象深い。相当な地位も名誉も収入もあったのに、何故彼は失意のうちに死んでいったのか? さらに、妻には去られ娘や孫まで不幸に追いやって。彼が徹底して無視した感情やファンタジー、それは人を幸福に導く生命の力といえるものではなかったのだろうか? けれど彼は、優秀さや厳格さといった価値しか認めなかったから、家族を苦しめ破綻させていたのだろう。その頑なさは、人の活き活きした心を怖れ秘かに敵視しているかのようだ。心に背を向けた精神科医とは、なんとも皮肉であり怖い。
 それでも、世間に置いてけぼりにされないように、この老医師のみならず、誰しもが心を抑えつけながら競争社会にあおられていく。こういう時代だからこそ、サラ・パレツキーは、人間を見失っていく社会に押し潰される前に、活き活きと生きる力を取りもどそうと訴えたかったのではあるまいか? もしも、キリストの復活のように蘇えられるのなら、スターは本の世界で処刑されても読者の心に復活する奇蹟を起こせるのかもしれない。様々な解釈ができるのだろうが、そういう奇蹟を願う物語のように、私は感じる。

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