ブラック・リスト を読んで |
谷澤 美恵
サラさんの、愛国者法に対する危機感のようなものが、ひしひしと伝わってくる作品でした。ただ、前々作、前作に比べ事件の深刻さが直接ヴィクとは関わりがなく、第三者の冷静な目で事件を追っていくというストーリー展開だったので、読んでいて楽ではありました。さすがに若干の体力の衰えはあるものの、それでもヴィクが、タフでスマートでウィットに富んでいるところが相変わらずで、とっても嬉しかったです。ニヤニヤしながら読みました。
とはいっても、赤狩りの時代の陰惨さ、それに絡めた人間関係のドロドロ、そしてウィットビーは誰になぜ殺されたのか、ということがわかるにつれて、だんだんとイヤ〜な気持ちになりました。驚くほど閉鎖的なお金持ちの世界、こういうのはよく映画や海外ドラマでも見ることがありますが、すごく嫌悪感を感じる一方で、いまいち現実味を感じられない、というか、そんな裕福な世界と自分とがあまりにも無縁なので、想像しきれないというのが正直なところです。まぁそれでも、ヴィクと同じサイドに住む人間としては、こんな人たちって可哀想だよなぁとか、こんなのは本当の幸せじゃないわ、とか思ってしまうんですが、たとえ下層(!)の人間にそんな風に思われたとしても、こういう世界に住む人々にとっては、痛くも痒くもないことなのかも知れませんが。…正直、それさえも想像しきれない。(笑)
でも愛国者法というのは、本当にゾッとする法律ですね。「赤狩り」というものがどんなものだったか、何となくは知っていたけど、今またそんな状況にアメリカが置かれてるというのは、他国から見ても危機感を覚えるのに、現実にアメリカ人はその中で生活せざるを得ない。怖いことだなあと思います。何より怖いのは、その法律に従うことが当然の義務だと思ってしまうことですが。
そういう中で、自分の好きな作家がこういう作品を書いてくれるということは、本当に嬉しいことです。
モレルについては、無事で良かった!の一言です。「サラさん、まさか今作でモレルを死なせたりはしないでしょう」っていう、かるーい余裕の気持ちで初めから読んでいたんですが、正直撃たれてしまうとは思ってなかった…ごめんね、ヴィク。でも、本当に無事で良かった。次回作では、元気になったモレルとまたアツアツぶりを見せてほしいです。