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アップ

わたしの大好きな本とCD 1

R.E.M. 「UP」

谷澤美恵

 バンドのメンバーのひとりが何らかの理由で脱退する、という話はよく聞きますが、R.E.M. のドラマー、ビル・ベリーがバンドを脱退したというニュースを聞いたときは、ほんとに頭の中が真っ白になりました。
 前作「NEW ADVENTURES IN HI-FI」が発売になった時、「17年間一度もメンバーチェンジのない不動の一枚岩」という宣伝文句に「ああ、そうなんだよなあ〜」なんて感動してたのに…。
 でも、永遠のはずはない。彼らだって生身の人間なんだから。

  95年のワールドツアーでのメンバーの度重なる病気、マイク・ミルズの盲腸、マイケル・スタイプのヘルニア、そして最もショックだったのがビルの脳出血…。一時は生死をさまようほどの重体だったということです。まだ30代でそんな経験をしてしまうと誰だって人生変わってしまうのではないでしょうか。彼が非常に華やかな、充実した、でも人生の中ではほんの小さな選択肢にすぎないロックスターという地位を捨て、今までとは違う世界、もの、人を求めたとしても不思議じゃない…。

 ビルから脱退の意思を打ち明けられ、驚き、悲しみ、動揺し、それでも「僕らはいちばんの友達だから」と彼の気持ちを最優先したメンバーたちの決断を、ファンとしてまっすぐに、静かに受け入れたいと思いました。
 「犬が足を1本失ったとしても、努力すれば残りの3本の足でまた走れるようになるんだ」。その言葉どおり、3人になった彼らは、またすばらしいアルバムを届けてくれました。

 かなり内省的な内容になっている、という前評判は聞いていたけれど、どうしても気になってしまうのはやっぱりドラム。リズムマシンを使った曲が多いなあ。ゲストのドラマーはいい音出してるけど、やっぱりビルのと感じが違うなあ。初めて聞いたとき、そんなことがとても気になりました。2度目に聞いたとき、メロディの美しさに気づいて感動。3度目にはすっかり心を奪われてました。ドラムは前と確かに違う。でも、でもすばらしい。面と向かって静かに語りかけるような、とても優しくて、哀しくて、切なくて、強いアルバムです。こんな世の中に、こんなにもすばらしいアルバムを作ってくれた彼ら(もちろんビルも含めて)に、心から感謝したいです。

1998年11月

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