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ESSAY

読書の楽しみ 6

『鬼平犯科帳』(その2) 池波正太郎

喜多篤子


 読み終わりました。1巻から24巻まで最近にしてはあっという間でした。おもしろくてどんどん読んでしまいましたから、どれがどの作品やら混乱気味です。きっとこれからも何度か読み返すことでしょうから、そのときにはじっくりと1回目の今回とは違う読み方をしたいと思います。
 本当に涙あり、笑いあり、活劇ありでおもしろいと言う他はないのですが、ただいつも勇ましく、いつまでも厭くことなく同じ調子で捕物劇が語られているのではありません。田中意次の後、老中松平定信の時代、日本史で寛政の改革と習った時代の大きな歴史の流れの中での人々、盗人も町人も、武士もすべての人々が変わっていくさまを背景に、そうした時代に生きる人々ひとりひとりの人生が自らの意思で、あるいは運命としか言いようのない出来事によって変わっていくさまが描かれています。戦のない平和な時代に武士は武士の本分を忘れ、商人は繁栄し、盗人は盗人3ヵ条を守る本格派より急ぎ盗め、つまりは皆殺しの強盗がはびこり、すべてはお金のための世の中になっていきます。そんな時代には人々はグルメ、ブランドに走り、武士も盗人も商人も親の七光りの2代目3代目がはびこるようになるんですね、今の日本とあまりにも似通ってるようで、おかしくなるくらいです。
 そんな時代に、長谷川平蔵を長官とする火付け盗賊改め方の面々は、日々変装を凝らし、足を棒にして江戸市中を見まわり、盗賊の手がかりを探します。いざ手がかりがあると、それからは鬼平さん、与力、同心そして密偵たちによる「スパイ大作戦」を髣髴とさせるような水も漏らさぬ緻密な張り込みに尾行、そして大捕物という運びになります。
 大筋はそうなのですが、そこに成功あり失敗あり、涙ありユーモアありの、さまざまな人間模様が描かれます。1話の中にだけ登場する盗人でも、商人でも、浪人でも、善人でも、悪人でもみんな生き生きと描かれています。そこがこんなにも読まれている理由なのでしょう。
 そして、鬼平さんの魅力を一言、それは毅然としてしかも深く人を愛することが出来ることだと思います。かけがえのない人はもちろんのことどんな人にも暖かい愛情をかけ、やさしく、ゆったりと接するのに、本当にいざというとき、必要なときには厳しくなれる、そんなメリハリのきいた愛情深さが素敵です。ただ単に、強いところもすてきなところですが・・・
 書きたいことはたくさんありますが、少々混乱気味なので、最後に私のお気に入りを3つずつ挙げてみたいと思います。
【カップル】
(1)平蔵と久栄
とにかく息の合った夫婦、息子の辰蔵を加えての3人も、楽しい
(2) 五郎蔵とおまさ
同志のようで、いたわりあってる夫婦がいい味
(3)伊三次とおよね
あっけらかんとした女郎のおよねと寂しげでいなせな密偵伊三次が良かったのに悲しい結末・・・
【同心】
(1)小柳安五郎
度胸のよさと思慮深さそして亡くした妻と子供を思いつづける純情と、後にハッピーエンドになる純情さがいいな
(2)沢田小平次
とにかくかっこいい剣士
(3)木村忠吾
とにかく笑える、いかにもありそうなところが楽しい
【仲間】
(1)左馬之助
平蔵の剣友、欲のないところと純なところ、強い
(2)お熊
たこの骨のような塩辛声の平蔵の昔馴染み、気風のよさと、頭と口の回るところがなんとも素敵なおばあさん
(3)彦十
こちらも平蔵の昔馴染みのなかなか口も足も頭も達者なおじいさん
【作品】
(1)「土蜘蛛の金五郎」11巻
平蔵と左馬之助の真剣な一騎打ちが見られるし、いつも緊張している平蔵の本音のようなつぶやきが聞かれます。
(2)「五月闇」14巻
私のごひいきの密偵伊三次が・・・残念、寂しい
(3)「迷路」22巻
平蔵の苦しみと緊張感がつらいけれど・・・読み応えあり
◎おまけ「炎の色」23巻
ごひいきの小柳安五郎に幸せが・・・、お相手も好き
【麺類】
(1)一本うどん
親指位の太い1本のうどんなんて、食べてみたい!
(2)貝柱のかき揚げそば
普通のてんぷらそばらしいけど、美味しそう
(3)淡雪そば
これは名前がすてき、淡雪はたぶんとろろだったか、(すみません、何処に出てきたか確認できませんでした)
それでは、平蔵さんと仲間たち、また読む日まで元気でね!

2004年1月

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