Chissarossa の I LOVE CINEMA 30
「ダーティーハリー」や「荒野の用心棒」ファンの一体誰が、こんな渋くて清冽な作品を作る名監督のクリント・イーストウッドを想像したでしょう?素敵、素敵!・・・なんていう言葉が不謹慎に聞こえてしまいます。でも、渋くて素敵なの。
「許されざる者」(1992年)あたりから俳優としてだけでなく監督としても、とても高い評価を得始めましたが、「ミスティック・リバー」の年何ぞは、運悪く、「ロード・オブ・ザ・リング〜王の帰還〜」なんてとてつもない大きな映画が一緒だったものだから、アカデミーで賞こそ取り逃がしましたが、「ロード〜」がなければ確実に「ミスティック〜」が作品賞やら監督賞などを獲得していた事でしょうと、拙者は思っています。
もうすぐ、ゴールデングローブ賞やらアカデミー賞の季節ですね〜もうワクワク楽しみです!
(そうこうする間に、ゴールデングローブの結果が出てしまいました・・・『父親達の星条旗』『硫黄島からの手紙』ともに監督賞でノミネート、外国語作品賞を『硫黄島からの手紙』が見事に獲得しました!!オメデトウ〜!)
して。今回のクリント・イーストウッド監督の試みの、何に一番目が惹かれるかと言えば。「父親達の星条旗」(→アメリカ側からみた硫黄島での戦い)「硫黄島からの手紙」(→日本側から観た硫黄島の戦い)と二本の別の映画でありながら、硫黄島で行われた戦いを日本側からとアメリカ側から描いた・・・と言う事です。これは事の次第を冷静に見つめようとすれば当たり前の事なのに、今まで誰一人としてやらなかった事です。人を描くに勧善懲悪は解りやすい手段でしょうが、戦争を描く時の勧善懲悪は疑問を招きます。一方で、アカデミー賞狙いか?とも思ったりしましたが、プロデューサーにスピルバーグの名前があるのを見ても、戦争の世紀といわれた20世紀のほとんどを生きてきた世代として、クリントには、”これからの人々に伝えなければならない事を描く”という強い思いがあるように思います。
別々に観てもとても満足の行くものですが、出来うれば、二本共に観て頂きたいです!
さてさて。『父親達の星条旗』
アーリントン国立墓地にある海兵隊記念碑となり、ピュリッツアー賞を獲得し、記念切手にもなった”硫黄島での国旗掲揚”という報道写真に写っていたアメリカ兵達の視点で物語が進んでいく・・・。
1945年2月23日。太平洋戦争末期のこの日、硫黄島の摺鉢山に上陸してきたアメリカ兵が淡々と上っていく。陣取りの象徴としてアメリカ国旗を掲げるために、たまたまその場にいた6人の若い兵士達に命令がくだされた。マイク(バリー・ペパー)、フランクリン(ジョセフ・クロス)、ハンク(ポール・ウォーカー)、伝令係のレイニー(ジョシー・ブラッドフォード)、アメリカンインディアンの出自のアイラ(アダム・ビーチ)、衛生兵のドク(ライアン・フィリップ)・・・・彼らはこの日より、アメリカの英雄となった。当初、アメリカは硫黄島を5日で占領する予定だったが、36日間の激戦が繰り返され、国旗を揚げた6人のアメリカの若者も硫黄島から生還したのは3人だけであった。
硫黄島での戦闘もそこそこに、生き残ったレイニー、アイラ、ドクの3人は本国に呼び戻され、アメリカ全土を巡る国債キャンペーンに駆り出される。どこに行っても熱烈な歓迎を受ける3人だったが、能天気に何気なく国旗を揚げただけの行為が英雄扱いされるギャップと、戦費を調達するために仕掛けられた演出のもとに入れ替わってしまった6人目の兵士の事、そして実際に行われている戦争・・・硫黄島での戦場体験は、そんなセレモニーとはあまりにもかけ離れていた。
あまり戦場の場面は多くなく、淡々とストーリーも流れていく上に、いわゆるメジャーな俳優さんが殆ど見られないので派手でもありません。劇的な悲惨さも目立ちませんし、解りにくいかもしれません。けれど、これが大義名分関係なしの、一般市民にとっての戦争なんだと思います。クリント・イーストウッド監督自身の経験も投影されているのでしょう、戦争の現場そのものだけでなく、政府のプロパガンダにより、知らずに躍らされていく怖さや、その結果に何が待ち受けていたのか・・・という、戦争によって何が起るのか、戦場以外の場所での戦争が描かれています。
そして続いて『硫黄島からの手紙』
1944年6月。既に敗戦の色濃い、日本の東南は太平洋上の小笠原諸島のひとつ硫黄島に、栗林忠道陸軍中将(渡辺謙)は降り立った。アメリカ留学の経験をもつ栗林は、圧倒的な物量と兵力を持つアメリカとの戦いが、絶望的で困難だという事をよく承知していた。それでも、理不尽な体罰や慣習にとらわれないで、着々と突拍子もない作戦(硫黄島に地下要塞を張り巡らせるというもの)を進めていく栗林。伊藤中尉(中村獅童)をはじめ古参の将校達は反発したが、ロサンゼルスオリンピックでの馬術の金メダリスト、バロン西と言われた西中佐(伊原剛志)は、愛馬を連れて作戦に着任し、栗林を励まし、西郷(二宮和也)達、下級兵士達は好意を持って彼を迎え入れる。
やがて1945年2月19日、アメリカ軍の上陸作戦が開始した。お国のために戦って立派に死ぬ事こそ名誉とされていたが、栗林は西郷達に『死ぬな』と命令する。本土にいる家族のために一日でも長くこの島を守れと。
ストーリー全体を、一兵卒の西郷と指揮官の栗林が、家族に宛てた手紙を読み語るように進められています。題名から推測されるように、届く事のなかった手紙に、彼らが何をしたためたのか61年ぶりに解き明かされていく・・・という仕掛けです。訥々と、内地の妻に手紙を書き、語りかける西郷役の二宮クンは、所帯を持っているには若すぎる様に見えますが、日常では清貧で堅気な職人という感じで、当時のアメリカ兵から観た日本の若者は、こんな風に写るのね〜という気がします。西中佐の伊原剛志は、ジェントルマンでとってもカッコいいし!栗林中将の渡辺謙は、まるで、のり馮ったごとく、他に誰がこの役を出来るの〜と、ド迫力です。最近でのマリナーズでのイチロー選手の活躍とも重なり、“出来る日本人=矜持のある侍”のイメージが出来つつあるように思えます。また、中村獅童のイキガッテル軍人ぶりも、獅童ならでは!と納得してしまいます。それからそれから、加瀬亮が、憲兵から降格されて硫黄島に送り込まれた兵卒=清水を演じているのですが、繊細な神経なのに、とことん無理をして、怖いことを怖いと言えないで耐えている様子が、誠に繊細な演技で感動です。
クリント・イーストウッド監督は、ご自身が名俳優だけに、その人の”持ち物”を引き出すのが、とてもお上手なのではないかと思いました。
『父親達の星条旗』の時も、かつては『ミスティック・リバー』や『ミリオンダラー・ベビー』の時もそうでしたが、全編を通して、少しもの悲しげな、それなのにどこか懐かしく温かいメロディが要所要所で流されるのですが、それが単線ゆえに清楚な感じさえするのが印象深いです。クリント・イーストウッド監督自らの作曲ですが、彼の人柄ひとなりがそのままに…という感じがします。勿論!音楽だけでなく、二本の映画がクリント・イーストウッド監督のお人柄そのものです。おごる事なく前へ進め・・・かな。
まったく、名監督におなりです。
2007年2月