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ESSAY

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ビジネスの周辺 3

年をとること

亜麻里

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 先日近くのスーパーへ買い物に行った。レジで支払いを済ませ、買ったものをビニール袋につめていたとき、そばにいた二人のおばあさんの会話が聞こえてきた。
「今度お会いしたときはさっさと元気に歩いてはって誰かわかれへんかもしれませんなあ。」
「いやあ、歩かれへんようになって車椅子になってて誰かわかれへんかもしれませんよ。」
「そんなことないわ。手術するねんやったらようなりはるわ、きっと。先生はどう言うてはるの?」
「半々やてえ。歩かれんようになるかもしれへん。」
「そんなこと言われたら困るやんねえ。せっかく入院して手術するのに。」
「まあ、なるようになるやろと思てるねん。それにお正月は病院でご飯も出るし、ゆっくりさせてもらえてかえって助かるわ。別にいつまで入院しててもええねんし。」
「そらそうやね。よろしいやん、ゆっくりしてきはって元気でまた会いましょう。」
「そうや。またお会いしましょう。そんならあんたもお元気でな。」

 私は内容としては結構深刻なこの会話を聞いても悲壮感を持たなかった。それどころか何となく頼もしい嬉しい気持ちで聞いていた。他人事だからと不謹慎だと思われるかもしれない。だけど、そんな気持ちになるような何となくのどかで淡々とした会話だった。むしろちょっと世間話しで冗談を言うような感じすらした。入院するとおっしゃっていたおばあさんは、まるで他人事のようで、会話の間中声の調子も明るかったし、入院することを楽しんでさえいるような様子だった。
 勿論本当のところはわからない。手術なんて怖くないと言えば嘘になるだろうし、入院することが楽しいはずもないだろう。もし入院することを本当に楽しみにしているとすれば、それはもっと悲惨なことかもしれない。私の住んでいるところは下町でお年寄りも多く一人暮らしも多い。家より病院の方がいいなんて決して幸せなこととは言えないもの。

 だけど…本心はどうであっても、私は人間(ひょっとすると女性だけかもしれないが)の逞しさというか生命力みたいなものを感じたのだ。
そして長く生きてきた人ってやっぱりすごい!と思った。そういえば私の祖母も91歳まで長生きしたが、年をとっても元気で、ケンタッキーフライドチキンやマクドナルドのハンバーガーなんていうのが好きだった。大学生だった私が遊びに行くと今日の洋服の色は顔映りが良いとか、おまえは背が低いのだからもっと高いヒールの靴を履いた方がいいなんて言ってくれたっけ。何に対しても好奇心がありあっけらかんとした強さがあったのだ。
 世の中は不況で暗い話題ばかりが目に付く。人間なんて弱いから気持ちから駄目になっていくところがある。長い人生には色々なことがあるけれど何とかなるさと時には開き直り、嫌なことや辛いこともちょっと見方を変えて楽しむくらいの気持ちを持つことも必要なのだと思う。
 年を取ることって奥が深い。やっぱりお年寄りって大事にしなくちゃね。

1998年12月

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