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天山の巫女ソニン 1 金の燕

私の本箱 16

『天山の巫女ソニン』

相澤せいこ

 ご無沙汰しておりました。また、ぼちぼち書いていけたらと思います。

 いままでとどうも勝手が違って、なかなか新職場になじめずにいた昨年度。図書館スタッフとして週2回ほど来ている司書さんと話す機会ができました。本好きの匂いを彼女はかぎつけたのか、いろいろお勧めの児童書を紹介してくれるようになりました。

 仲良く話せる人ができたうれしさもあって、とにかく預かるのですが当時はまとまった読書ができなくて困っていた時期で、読み通せないまま返す事もありました。そんな中で3回目くらいに預かったのが「天山の巫女ソニン」でした。

 数ページ読んだらもう手放せなくて、借り物は普通持ち歩かない掟を破り厳重包装で通勤電車に持ち込み、読み耽って乗り過ごし未遂を繰り返しつつ読了。図書館で3巻まで借りて読み、とうとう4巻は購入、5巻が出たときは1?4巻もセットで入手、もう完全に永久蔵書認定の作品です。

 12歳のソニンは、赤ん坊の頃に才能を見込まれ、天山に引き取られ巫女として修行しつつ育ちます。この国の巫女とは、夢見の力で真実や未来を答えたり、薬草など自然の力を利用する知識に長けた特別の存在です。潜在能力を持つ者だけが選ばれて天山で修行します。ところがソニンは「見込み違い」と判定され山を下りることに。

 ふつうだったらここで腐っちゃいますよね。ところがソニンは、それまで妬みや嫉みと全く縁のない世界で暮らしていたからか、素直に運命を受け入れ家に帰ります。これまた両親と姉ができた人たちで、ずっと一緒に暮らしてこなかったソニンを、ありのまま迎え、普通の娘として受け入れるのです。

 こうして貧しい農家の娘として再スタートしたソニンでしたが、口のきけない10人兄弟の末の王子・イウォルと出会い召使いとして王宮へ行く事になります。ソニンは国政を間近に見聞きする生活を送るようになり、否応なしに国どうしの争いに巻き込まれていきます。

 ・・・とまあ、帯風にまとめると「少女ソニンの冒険と成長の物語」ですが、この本の魅力はなんと言っても、人の心の移り変わりについて、ミクロとマクロを丁寧に描いている事だと思います。ミクロというのは、主人公や登場人物の心模様。マクロは、社会全体の人の心の動き。

 隣り合う3つの国の政治と駆け引きが全5巻をドラマチックに展開します。野望を巧みに叶えようとする者と無益な争いが起こらないように必死の努力をする人達がいて、それぞれの心情が丁寧に描かれます。巧妙な国政者によって、大衆の心がどうやって動かされていくのか。こちらに何の意図も落ち度もないのに、周囲の態度が一変してしまうのはなぜか。出来事は表面だけではわからないし、見る者が変われば全く違う意味を生み出す・・・思慮深いソニンの目を通して、人間の感情、社会はそれらが寄り集まってできているのだという事、その変化としくみを、読者にわかりやすく解いています。道徳臭さは一切なく、物語の躍動感を失わないまま、そうした事を考えさせてくれます。

 ソニンは何しろ欲がない。でも、それが果たしていい事なのかどうか、運命を受け入れるだけの自分に疑問を持つようになります。王子もソニンを通じて世界を広げ、自分に足りないものに気づいていきます。この二人を取り巻く登場人物達がまたたいへん魅力的。最終的には心をつなぐ友となっていく隣国の王子クワンと王女イェラ。ともに美男美女ですが、孤高の人。でもソニンに出会う事で新しい自分を見出していきます。天山を降りてから最初に出会った女友達・ミン。極貧の生活から自分の力で抜け出し、たくましく生き抜いていくソニンの親友。(女の子が他を頼らず、自分の力で運命を切り開いていく展開も、もうひとつの魅力です。)

 お互いに影響を受けつつ、自分の目指すものへ近づこうと知力を尽くして進んでいく彼らに喝采しつつ、人間社会もまだまだ捨てたモンじゃない、やれる事があるのでは・・・と励まされているような気持ちになりました。

 もう全国の子ども必読指定図書にしたいくらい。そう思ったので、子育てモタモタしているうちに高1になってしまった娘とだんだん生意気になってきた小6の息子にも一応薦めてみましたが、お呼びがかかりません。娘は今、ティーン小説やホラーみたいのにしか興味が無いし、息子は謎解き物ならなんとか読みますが、物語好きにはなってくれなかった。薦めてくれた司書の彼女も、「すごーくいいと思うのだけど、今風の漫画っぽい挿絵ではないし、なかなか手にとってくれない」とこぼしていました。裏表紙の内側の図書カードには、借りた子ども名前が1人しかなかった。読めばわかるのにぃ。歯がゆい。

 一応児童書扱いですが、国家レベルの政治的な駆け引きや人間心理を丁寧に書き込んでいて、子どもだけのものにしてはもったいないです。ぜひぜひ。5巻で一応お話は閉じられた格好ですが、ファンは続編・・・研鑽を積んだソニンの大人になってからの物語を期待してしまいます。

 ちょっと俗っぽくなりますが、このお話、朝鮮半島が舞台として思い浮かぶのです。実写版になったらどうなるのかなあ。12歳から30歳代までのイケメンが10人以上必要なんですよ。ふふふ。韓ドラ好きの方々には、また別の楽しい読み方があるかも。

『天山の巫女ソニン』全5巻 菅野 雪虫作 講談社

2009年11月

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