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私の本箱 13

ルーツは?
江戸川乱歩の少年探偵団シリーズ

相澤せいこ

 子ども達が私自身の子供時代を思い出せる年齢にまで大きくなってきまして、「この子達と同じ年の頃、何していたっけ?」とよく思うようになりました。一人っ子だったので、家にいると一人で遊ぶほかありませんでしたから、一人トランプ(一人で2〜4人の役をする…しょーもないと思うでしょ、でも一人っ子同士で昔話すると、みんなやっているのです!!)に厭きると、あとはひたすら本かマンガを読みまくっていました。読み物とマンガ、どちらも夢中になっていました。

 一番夢中になっていたのは、江戸川乱歩の少年探偵団シリーズです。ポプラ社から出ていたハードカバーのシリーズ。絹目の表紙に映画の看板みたいなタッチの絵が描いてありました。覚えている人多いのではないでしょうか。怪盗ルパンやシャーロックホームズのシリーズは、カタカナ名前が苦手でなんだかとっつきにくくて敬遠していました。いまだにそちら方面は読んでいません。大体少年探偵団シリーズは50巻位ありましたからそれだけでもう十分・手一杯でした。

 怪盗二十面相が狙うのは世にも珍しい・美しい宝石貴金属美術品ですから、当然舞台は大邸宅。数え切れないほど部屋がある洋館に広い庭。自分の暮らしている環境では想像しきれない世界ですが、なんとなく謎めいた雰囲気を感じ取ってぞくぞくしました。そしてそこに住む人たちの上品な言葉使い。江戸川乱歩の文章もきびきびとして、子供心に“カッコいい”と思いました。4文字熟語の響きもリズミカルで、声に出して読むのもお気に入りで、泊まりに来た従姉妹に無理やり読み聞かせしたりして(結構迷惑だったろうなあ)。文体の好み、これで決まった気がします。

 そしてこれぞ「荒唐無稽」の変装技!青銅魔人とか、虎とか、豹とか、宇宙人まで…当時の私は、それら突拍子もない怪物に真面目に取組む少年探偵団の子達にシンクロしていました。そしてからくり屋敷的なトリック。洞窟もよく出てきましたね。いまだに鍾乳洞など見学すると、出られなくなりそうになりながら、仲間を励まし知恵を働かせて苦境を乗り切る小林少年のことなどが思い浮かんでドキドキしてきます。

 読み進めていくうちに、全巻まるまる怪人二十面相と明智小五郎の対決話ではなくて、明智小五郎が殺人事件を解決する話も入っていることに気が付きました。『死の十字路』『地獄の道化師』…小学生ですから結構恐ろしかったのですが、推理やトリックの巧みさに引き込まれて読んでしまいました。

 調子に乗って、叔母の本棚から横溝正史の金田一耕介シリーズも読み出しました。あれこそ背伸びしすぎなのですが、小難しい漢字を読むのが快感でもありました。謎解きは複雑でどろどろで…何代にも渡って受け継がれた、遺伝子のような犯行動機が恐かった。でも、物語としてはこちらの方が面白く、ドキドキしつつもだれが?どうして?と、「謎解き」というミステリーの醍醐味に魅了されていきました。それと共に、人間の業の深さや悲しさを感じる作品に惹かれるようになりました。

 その後はあまり作家にこだわらず読んできたかなあ。「羊たちの沈黙」を読んでしまったのは、クラリスに惹かれて、彼女がどうなっていくのか、それが気になって仕方がなかったから。ヴィクのこれからが気がかりなのと一緒。(だから「ハンニバル」、ものすごく失望しました。)

 今ヴィクの物語に惹かれているのは単に推理する楽しさだけではないと思います。登場人物の生き方、暮らし振りが大切に描かれていて、それがとても魅力です。ヴィクもロティさんも、生きる舞台も職業も自分とは違っていても、志は同じくして生きていけるのではないかと思えるのです。それは、現実に存在するサラさん自身が志を同じくして生きているから、ものすごいリアリティを持って読者に伝わってくるからでしょう。ああ、今ヴィクはどうしているのやら。早く新刊読みたいですね!!!

 どちらかというと冒険活劇的な探偵物からスタートした私なのに、ふしぎな感じもします。成長したという事でしょうか。38歳にもなって成長もないですが。

2005年12月

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