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私の本箱 8

現実逃避かもしれませんが…
雑誌『ku:nel』

相澤せいこ

 年度始めの怒涛の仕事がやっと一段落しようとして…い、いたはずなのに、またガタガタし始めてしまいました。一昔前の、のんびりと人間的な速度と仕事量は一体なんだったの?「民間はもっと大変なのだから、努力しなくちゃダメじゃない!!」と言われると、ごもっともですと思うのですが、過労死と自殺者を生む非人間的な労働環境にどうして引きずられるのよお、とも思います。みんなでもっとのんびり生活を大切にするペースを取り戻せないのかなあ。のっけから愚痴ってすみません。でも、こういう気持ちがあるからこそ、輝いて見えちゃう雑誌のオハナシなもので。『ku:nel』のことです。

 5月に発売された(奇数月のみ発行)表紙は、アルマイトのお弁当箱に入ったお裁縫道具のアップ写真。どこか旅先で見つけたようなアップリケとかボタンとかが大切にしまわれて。どんな物語があるのかなぁとページをめくったら、この持ち主さんが田舎に帰って、おばあちゃんとお裁縫箱見せっこしてる。おばあちゃんも可愛らしいレースの花模様のアップリケやボタンをしまっていたりして。読み進めて行くと、ハワイのカウアイ島のこと(カウアイコーヒーは美味しいです)、ワンストラップの靴コレクターの話、便利な「なべ」と暮らす人たちの特集、毎号あるお弁当紹介コーナー…。そして「銀座ウエスト」の記事にびっくり。あのリーフパイがいまだに手作り部分を残していたとは。ひとつかふたつ前の号には北海道の「六花亭」の工場の話が載っていて、やっぱり手作りで、工場では毎日職員全員で雑巾がけしていると書いてあったっけ。

 この雑誌に登場する人とモノはゆったりとみずみずしくて、一緒にピカピカ輝いています。何が大切か、一筋ちゃんと見えていて、だからゆっくり歩いていける。そんな感じがして、自分も足元をきちんと確認して、靴紐ちゃんと締め直しておちついて歩いてみようって気にさせてくれます。もちろん、今の生活があまりに雑に思えて、悲しい気分にも襲われるのですが…まずは深呼吸して、ダイジョーブダイジョーブと、自分に言い聞かせてあげられる。そういう心の余裕を取り戻させてくれる雑誌です。

 この雑誌には、年金問題も学力低下も戦争も核兵器開発も領土問題もストリートチルドレンも人種差別も児童虐待も登場しません。現代の窮屈で悲惨なお話はオミットされているかのようです。でも、でも。この雑誌を開いていると、本当に生きていて幸せを感じる事、それを守る事の大切さをしみじみ噛み締められる気がしています。それ、がんばれっ!って自分にはっぱかける気力が出てくる。2ヶ月に1回の大切な精神リフレッシュです。

手作りのお話が多いから、いきおい、お裁縫関係のお話も多くなります。私の祖母は和裁も洋裁も何でもできて、伯父のクローブまで厚布で作ったとか聞きました。私の服も小さい頃よく作ってもらいました。そういう祖母を見て育った母は、「大きくなったらできるようになるんだー」と思い込み何の努力もしなかったので必要最低限のことしかできません。それでも、まだまだお裁縫は趣味ではなく、生活の一部だった時代を生きた人なので私よりマシです。さて私は。家庭科で散々な結果を残してきたから、ずっと苦手で嫌いな分野でした。でもやっぱり手作りの方がカッコイイ。世界にひとつだけ。子ども達の上履き袋を見るたびに思います(友達に作ってもらったのです)。手作りって、仕上がったものだけでなく、それにかけた時間の尊さをも感じるから、大切に扱えるのだと思います。いまはまだ手芸屋さんに行って可愛らしい素材を目で見て楽しんでいる程度ですが、ムスメはフェルトで何か作ったりするのが好きみたい。祖母の血よ、孫で再び!と祈っている毎日です。私も一緒に世界を広げようと思ってます。

2005年6月

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