梅村 浄
出生前診断について2年前に改めて勉強し直し、「すごいっ!」と感動しました。染色体レベルの検査だけではなく、遺伝子診断が臨床の場に実用化されてきているのです。ワトソンさんとクリックさんがDNAを発見した話を医学部の生理学教室で聞いた時から、長い時間が経ちました。私がこどもの臨床という別の世界で過ごしていた間に、こつこつと生命の神秘に迫っていった研究者達の執念に、私はただただ呆れてしまったのです。
ところで、20数年前、私は若い母親でした。先天性に違いない娘の病気を前にして、原因を探る検査を勧める主治医の申出を断わってしまう、かたくなな母親でもありました。でも、その時立てたルールは、今でも有効であると考えています。それは「治療に役立つ検査なら、少々の痛みがあって、娘が苦しんでも仕方がない」「治療につながらない検査のための検査は受けさせない」というものです。主治医はそれでも「医学の進歩に貢献することになるから」と言って、バイオプシー検査を勧めました。
出生前検査でもこれと同質の問題があります。医者はトリプルマーカーテストや遺伝子診断の技術を駆使して、先天性の病気を診断することに精力的に取組もうとしています。他方では、若い親達は、今ここに生きようとしている胎児をその検査の手に委ねたものかと迷っています。ただ、ここで違うのは人工妊娠中絶という恐ろしい罠が見え隠れすることです。娘は当時の病気を乗り越えて、障害を持ちながらも元気に25才の青春を生きています。
若いお母さんお父さん達に、命が始まるときを大事に見守っていってほしいと願いながら、このアンケートをまとめました。
アンケートの項目を使用することを了承して下さった京都ダウン症児を育てる親の会「トライアングル」の皆さん、図表作成と原稿の仕上げに時間をさいて協力して下さった加藤英二さん、カットを描いて下さったみずの圭さん、そして、このアンケートに答えて下さったすべての皆さんに感謝いたします。
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